サンタ物語
作・ユッコさん
サンタに会ったのは五年前の冬だ。
二月の寒い冬だった。
不動産会社のユッコさんは、ある中古住宅のオープンハウスを行った。
いつもの様にお客様を待っていた。
二月の寒い土曜日
四時頃になると、どの家も電灯が明るくつき始める。
ふと見ると売り出し中の反対側の古い家にガリガリに痩せ細った脚の長い犬が繋がれていた。
それはもうずーと百年も前から繋がれている様な様子だった。
その家だけが、何時になっても電灯がつかない。
真っ暗な家の片隅に小さな犬小屋と、やせ細った犬がいた。
ユッコさんは家主さんがまだ帰って来ないのだわと思いながら、夕方そのオープンハウス
を終了して会社に戻った。
翌日の日曜日
またオープンハウス
ユッコさんは、張り切って前日の売り出し現場へ。
気になる昨日のワン子の家、窓を見てもドアを見ても誰も住んでいるとは思えない。
だけど・・・
犬がいるし、誰も住んでいないなんてありえない。
柴犬に似たあのワン子余りにも寂しげだった。
夕方になってもその家の電灯は付かない。ユッコさん担当の住宅も売れなかった。
『来週も売り出しだ。』
なんて気持ちを取り直して、ユッコさんは、旗をしまって会社に帰った。
家に帰ってもあの犬の事が気になった。
あの家の人はもう帰って来たかしら・・・
一週間後、
又
ユッコ店長は、あの売り出し現場に居た。
あの一人ぼっちのワン子が気になって仕方なかった。
どう見てもあの犬は人に飼われているとは思えない。
汚な過ぎる。
痩せすぎている。
悲しそう。
淋しそう。
ユッコさんは、近所に人に聞いてみた。
『あー、あの犬、もう一年もこんな状態なんですよ。
この家、競売になっちゃって、持ち主は近くの県営住宅に住んでいるのだけど・・・・
この家が競売になってしまって、犬をおいて行ったのよ』
『エーッ!一年も?この犬一人ぼっち?そして、餌はどうしているのですか?』
『朝、持ち主が餌をやりに来て、少し散歩して、また縛って帰って行く様ですよ。
だから、近所の人が気が向いた時に、散歩してやってるのよ』
『エーッ!』
犬好きのユッコさんは、胸が張り裂けそうになった。
なんて可哀想な、
なんて酷い事を・・・
『あの犬の名前は?』
『あーサンタって言うのよ』
それがサンタとの出会いだった。
ユッコさんはお弁当の残りを持って、サンタに近づきました。
ウーッ
元気のない声でサンタは少し唸りました。
『おまえ一人で苦労したな、エラかったな、
淋しかったろう、寒かったろう、
これ食べるかい?』
お弁当の残りをこわごわサンタの前に差し出しました。
痩せこけたサンタは、ゆっくり警戒しながら食べ出しました。
ユッコさんは『そうか、そうか、一人で良く頑張ったなー、偉かった、偉かった。』
とずーっとサンタに話しかけました。
『お前寒かったろう、こんな北道路に一年も鎖で繋がれてたのか、良く頑張ったなー偉かった、偉かった。』
犬小屋の敷物は泥でびっしり。
何年も干してもらっていないのか固くなっていました。
『サンタ、私も一人だ。陽の当たる所に出ておいで』
サンタに話しかけながら、鎖を解き、陽の当たる所に連れ出しました。
私も今日、ここで売り出しだ。
二人並んで日向ぼっこだ。
サンタ、嬉しそう。
陽が当たって、嬉しそう。
サンタはユッコさんと並んでいました。
心が通じたと思いました。
その日もオープンハウス住宅は売れませんでした。
『サンタ帰るよ。』
泥んこの敷物もお日様に当てて少し消毒できたかな。
『また明日来るよ。』
『バイバイ、サンタ。』
家に帰ったユッコさん、サンタの事が気になって気になって、仕方ありませんでした。
翌日、
『また来たよ。サンタ!』
サンタも二日目は嬉しそう。すんなり小屋から出てきて、
今日も二人で日向ぼっこ。
二月の空は寒いけど、
陽が当たる所はいいねーサンタ。
ところでこの犬、
持主が競売でどうなっちゃうのー?
近所の人に聞きました。
『もう落札も決まったという事だし、三月には保健所だと思いますよー。』
『えー!保健所?
そっ、それはだめです。それはだめ!
こんな良い子を保健所なんてだめです!私が何とかしますので持ち主が餌をやりに来た時、
私に電話くれる様に伝えて下さい。』
一枚の名刺を近所のおばさんに託しました。
サンタ君、今日はこれでお別れ。
私が絶対救い出してあげるから、もう少し、頑張ってね。
私が絶対に迎えにくるからね。
ユッコさんは後ろ髪を引かれる思いで又、サンタを鎖につないで家に帰りました。
飼い主が電話をくれるかしら。
保健所につれていかれないかしら。
毎日、毎日、心配でサンタの事を考える日々でした。
三日後の夕方、飼い主から電話が・・・
ボロボロ泣いていました。
『どうか飼って下さい。お願いします。』
『ハイ、喜んで飼わせて頂きます。安心して下さい。』
ユッコさんの腹は決まっていました。
善は急げ!
翌日ユッコさんは、お姉さんに頼んで、大きな車を出してもらい、
サンタが心配しない様に汚い犬小屋を乗せてもらいました。
サンタはユッコさんの車に乗せました。
『サンタ行くよ!』
サンタは何のためらいもなくユッコさんの車にポンと飛び乗りました。
ユッコさんとサンタはずーっと昔から知ってる様な、
前世から知り合いだった様な、不思議な感じを受けました。
持ち主から聞いた事、
サンタは六年前の十二月二十四日、クリスマスの日に、
小学生の裕太君に道端で拾われたそうです。
だから名前はサンタ。
裕太君の住まいは県営住宅、犬を飼ってはいけない住宅。
最初はこっそり飼っていたそうです。
六ヵ月位するとサンタは、みるみる大きくなって、
とても県営住宅では飼えない程。
そこで、裕太君のお父さんの勤めている会社の工場に置かれたそうです。
昼間は人がいても夜になると人っ子一人いなくなってしまう工場に番犬として三年間置かれたそうです。
どんなに淋しかっただろうねサンタ。
サンタの我慢強さはこの頃出来上がったんだね。
三年後、
その工場が閉鎖になり、サンタは、居場所が無くなりました。
次にサンタはお父さんの知り合いの中小企業の社長さん宅に預けられました。
北道路玄関脇の堀と家の間に縛られました。
二年後、今度はその家が破産。
その家の人はどこかへ。
サンタは一人残されました。
近くに住んでいた裕太君の家族が一日に一回餌やりと散歩に来てくれたけれど、後は一人ぼっち。
泣いても、
吠えてもだーれも助けてくれない。
孤独の日々が一年も続きました。
でもサンタは、決してひねくれなかった。
決して人間を疑わなかった。
産まれた時のまま、黙って、
ただ黙って自分の人生を受け入れていたんだね。
体はボロボロ、ガリガリ、シャンプーなんてした事ない。
何か様子がおかしい。
ボクの命はどうなるのか?
そんな時、ユッコさんと会ったんだね。
サンタは分かったのさ、この人がボクを救ってくれるって。
だからユッコさんが車で迎えに来た時、
ポンと車にのったのさ。
さて、夢中でサンタを家に連れて帰ってきてしまったユッコさん、ハタと考えた。
ユッコさんの家は外階段の小さな小さなビル。
一階がテナントで
二階がユッコさんの不動産会社、
三階が住まいというもの。
空地なんてまったくない。
それに家の中には、
気楽なミニチュアダックスフンドが二匹。
とても家の中では飼えない。
まず、ミニチュアダックスフンドのダンディー君とジャーニーちゃんはあちらの部屋に。
その間に、サンタ君お風呂場に直行!
まずサンタ君を洗わなくちゃ。
ユッコさんのお姉さんは、シェパード、ハスキー、ポメラニアン、
パピヨン、シーズーと五匹も飼っている犬歴三十年の大ベテラン、
という事でサンタ君のシャンプーを頼みました。
生まれてから一度も洗ってもらった事のない
サンタはビックリ仰天。
でもユッコさんもいるし、おしんの様に耐えました。
『あらーこの犬こんなに白かったのー?』
なんときれいなハンサム犬。
そうです。ホントのサンタはこんなに綺麗な犬だったのです。
空地のないユッコさんはサンタをビルの階段に置きました。
家の中は、ダンディー君とジャーニーちゃんが、怪しい犬がドアの向こうにいるとワンワンキャンキャン大騒ぎ。
おとなしいサンタはちび犬達に吠えられて嫌だったね。
サンタがブルブルってするとサンタの毛がパーっと飛んでいって隣の家のベランダの洗濯物に。
ユッコさんは頭を痛めました。
これでは隣の家から苦情がくるのはもう時間の問題。
何か次を考えなくちゃ。
おう、ℊood idea!
ユッコさんの会社は、不動産会社。
丁度、会社の後ろに、管理をさせて頂いているアパートが一棟。
そうだ!あのアパートのどんな片隅でもいいから犬小屋を置かせてもらおう!
だけど断られたらどうしよう?
オーナー様お願い。祈る気持ちで。
まず電話。
『もしもし、荒井ですが、お願いがあるの。』
『良いわよー。』
『えー、私、まだ用件は言ってませんが。』
『良いのよ、荒井さんのお願いなら何でも良いのよ。』
『ありがとうございます♡♡♡てな訳でアパートのどんな片隅でも良いから、犬小屋を置かせて頂けませんか?』
『なーんだそんな事。丁度、自転車置場に屋根が付いているから、その下に置いて良いわよ。』
ありがとう齋藤さん、なんて良い人!
という訳でサンタは又々、救われました。
サンタはアパートの住人になりました。
アパートのオーナーの息子さんが一〇三号室住人?サンタと書いてくれました。
良かったねサンタ。
優しいみんなのお蔭で命が助かったね。
ユッコさんは奮発して新しい犬小屋を買いました。
サンタが来た事でアパートの住人が会話をする様になりました。
今日はサンタがこうだったの。昨日はサンタがああだったと、みんながサンタ良い子、ハンサム、サンタは他の犬と違う、
やっぱり苦労したから、人間ができているなんて、
みんなに褒められて、サンタ嬉しそう。
朝はユッコさんや、事務員の笹本さんが散歩してくれたり、
夜は、ユッコさんの愛犬、ダンディー、ジャーニーと一緒にお散歩さ。
最初はダンディー君に吠えられたけど、僕は平気さ。
誰とでも仲良くなれるから。
ユッコさんは大変さ。
1日十一時間位働いているから、散歩は夜の
十一時なんてザラさ。
そんな事より、ユッコさんは、胸を痛めていました。
サンタと同じ家に住みたい。
あのアパートが空いたら私が借りようかなーとか、
こんな小さなビルじゃなくて一戸建ての家が欲しい。
玄関越しに飼い主がいる生活をサンタにさせてあげたい。
大風が吹くと、サンタが寒くないか?
雨が降ると、大丈夫か?
雷が鳴ると、サンタは怖くないか?
雪が降ると迎えに行き、家の玄関に入れたり。
少し離れた距離にいるサンタが心配で不憫で・・・。
サンタの生い立ちを思い出し、サンタは飼主と離れて生活しなければならない星の下に産まれたのかなー?
ユッコさんの二匹のダックスは本当に幸せ。
ユッコさんに甘えて、抱っこされて
、散歩に行きたければ玄関の方に飛んでいって、ワンワン吠えて、自己主張して、
それに比べたら、絶対わがまま言わないサンタ。
人生はもっともっと楽しいんだよーって教えてあげたい。
ユッコさんは定休日の水曜日、二匹のダックススフンドを連れて、お姉さんの犬達と一緒に、伊奈町の畑を散歩するのが日課。
それが楽しみ。
犬が喜ぶのが一番の幸せ。
犬だって笑うんだもの。
次の水曜日、サンタもお姉さんの犬達とご対面させなくちゃー。
それはもう大変。
サンタ君、みんなに吠えられて、リードをといたら噛まれそう。
みんな仲間に入れてくれるかしら。
それでも少しずつ慣れてきて
毎週水曜日、八匹で一緒にお散歩です。
サンタ
こんなに自由に飛び歩いていいんですか?
こんなのボクの人生初めて。
楽しいなー、嬉しいなー
あれー鴨だー
ポンポンバシャーン
『あー落ちた!』
『サンタッ サンタッ サンターッ!』
サンタは川の中
エー葦だと思ったら、下は川だった。
けっこう流れが強い。
ユッコさんは叫びながら。
『サンターッ サンターッ、』
葦の茂みから、サンタの必死な顔。
ユッコさんは、サンタの首輪を持って思い切り、引き上げました。
サンタも今までにない真剣な形相で、
やっと、土の上に。
『サンタのバカバカ、』
腰がぬけて、声がかれて、泣いてしまったユッコさん。
サンタも川ってこんななのー
あー怖かった。
サンタもう、綱から離れてはいけないよ。
楽しいなこんな楽しい世界があったんだ。
こんな楽しい散歩があったんだ。
サンタ初めての体験でした。
それからだんだん慣れてきて、お姉さんの犬五匹も
みんな仲間と認めてくれて、
楽しい日々。
でも帰ってくると、アパートの傍。
『ユッコさん バイバイ』
『サンタ バイバイ』
サンタと別れて、家に帰るユッコさん。
いつも胸が痛い。
ダンディーとジャーニーは良いなー。
ユッコさんと一緒の家で、一緒の部屋で。
サンタ、ごめん。
サンタのアパート暮らしが始まって二年経った頃、
一緒に散歩していたハスキーのももちゃんが老衰で十六年の命を終えたんだ。
お姉さんは大泣きだ。
大型犬のシェパードのメリーちゃんも泣いていた。
他のちび犬も何か変だよって元気がない。
でも気を取り直して、毎週水曜日はお散歩さ。
今度は、お姉さんの犬とユッコさんの犬七匹になってしまったけれど、
七匹で頑張ろう。
ももちゃんの死から四ヶ月後、
あの前日もみんなでお散歩に行ったのに
元気で走っていたのに
シェパードのメリーちゃんは、その夜中、
突然死してしまったんだ。
朝起きたら、眠るように冷たくなっていた。
メリーちゃん・・・
お姉さんはがっかりして、一年に二匹逝ってしまうなんて。
お姉さんの家はユッコさん宅と違って、二百坪の大型住宅。
ワンコ達は、綱無しで、元気に走り回れるの。
いつだって、自分の意志で動けるの。
暑ければ木の下の涼しい所を見つけて移動。
寒ければ、フカフカお布団の犬小屋さ。
そしてなんと言っても毎日一時間半のお散歩。
サンタはアパートの鎖につながれて半径一メートルが動ける範囲。
ユッコさんはサンタをお姉さんが飼ってくれたらって、心で祈っていたの。
綱に縛られないで、自分で走り回れる生活もあるよーってサンタに教えてあげたい。
もう、工場で繋がれていた頃みたいに、金属で殴られる事なんて無いよって、
ユッコさんと夜の散歩の時、
金属音がすると飛び上がって怯えていたサンタ。ダックスフンドのジャーニーとダンディーは、
金属が自分を殴ってくるなんて知らないから全然怖がらない。
過去に殴られた記憶のあるサンタは、金属音でパーンと飛びのいて怯えてる。
サンタ過去に何があったの?
大丈夫だよ。
あれは過去の事。忘れてしまいな。
お姉さんは泣いていました。
一年に二匹も大型犬が亡くなるなんて。
でもやけくそになって
『今度はゴールデン飼うから良いよー』
なんて強がっていた。
ユッコさんは心の中でサンタを飼ってくれないかなー
犬の気持ちが分かる姉さんが飼ってくれたら
サンタは幸せになれるのにーサンタは雑種だから駄目なの?
『姉さん、防犯上も悪いから、サンタ貸し出すよ。』
と、ユッコさん。
『そうねーゴールデン飼うまで。』
と、姉さん。
『サンタ、姉さんが気落ちしているから、姉さんの家行って来るんだよ。』
ユッコさんは泣いていました。
サンタは可哀想。私も一緒にいたいけど、
サンタはアパートの住犬。
サンタお姉さんに気に入ってもらえると良いね。
こんなに性格が良い子なのにね。
サンタは不思議そうでした。
そりゃー毎週散歩しているから、お姉さんの家は知っているけれど何でユッコさん帰っちゃう訳?
サンタ許してね、サンタ、アパートにいるの
幸せでしょうけれど、お姉さんに飼ってもらえたら、もっともっと幸せなんだよ。
一人で車に乗ったユッコさんは泣いていた。
サンタはもうアパートには戻らないって。
捨てたんじゃないんだよ。
また来週一緒に散歩できるよ。捨てたんじゃないよ。
サンタの本当の幸せを思っているんだよ。
ユッコさんはただ泣きながら車を走らせていました。
一週間後の水曜日また、サンタに会いに、そしてみんなで散歩。
お姉さんが言いました
『サンタ、いい子だから飼うよー』
サンタ、良かったねー
今まで本当に辛抱辛抱の人生だったねー。鎖なしで、庭を走り回ってメリーちゃんや、ももちゃんの様に月一回のシャンプーに美味しいご飯。毎日一時間半以上の散歩。
サンタは最後の勝利者だね。
サンタ偉かったね!
今まで自分の運命に文句も言わず、泣き言言わず、自分の運命を素直に受け入れて、黙っている。
ひねくれず、意地悪にならず、ひるまず、がっつかず、サンタに色々な事を教わったよ。
サンタが来て二日後、
お姉さんは、裏の畑をやっていたおじさんが
病気犬の面倒を見られなくなったので、飼って下さいと
庭に太ったビーグル犬を置いて行かれた。
その名はビー。
サンタはたった二日で子分が出来てしまった。
闘争心ゼロの太ったビーちゃん。
サンタがお兄さんだと思っていつもくっついている。
サンタが右に走れば右へ、
左に走れば左へ。
サンタはビーをイジメル事なく、すんなり受け入れた。
サンタがお姉さんの家に行くことになって正式にアパートの住民の方々と、ユッコさんの事務所で「サンタのお別れ会」をやった。
お姉さんの家から一時帰宅したサンタをかこんで、
まさやさんの奥さんは泣いていた。
ユッコさんも泣いてしまった。
だけど、サンタはアパートにつながれているより間違いなく幸せだとみんなの意見。
みんなサンタを思ってのお別れ会。
みんなでサンタをお姉さんの家に送って行きました。
なかなかお名残惜しくて、またお姉さんの家でサンタを交えてお別れ会の続き。
『これなら本当にサンタは幸せだ。』
南道路の広い芝生の庭。サンタ、苦労したかいがあったね。
走り回るサンタ。
毎週水曜日は、今まで通り伊奈町の畑散歩しようね。
お姉さんの一番犬、アトム君。お姉さんの従業員に捨てられたパピヨンのココちゃん。
おばあちゃんのポメラニアンたっくん。それに我アイドル、サンタ君。
サンタの子分のビーグル、ビーちゃん。ユッコさんの愛犬、ジャーニー、ダンディー。
みんな犬には犬の人生あり。犬生かな?みんな人間の都合で捨てられたり、いじめられたり、殺されたり。
人間の世界も大変なのさ。
生きるって事は、色々な事がのしかかってくるんだ。親に捨てられたり、リストラになったり、
一家離散になったり、病気になったり、愛する人に死なれたり、色々な事があるんだ。
だけど、
サンタの様に、文句も言わず、
寒い北風に耐えぬいた者が絶対に最後の勝利者になるんだ。とサンタが教えてくれた。
ある日、お姉さんが門扉を閉め忘れて出掛けてしまった事があった。
お姉さんが帰ると開け放しの門扉の向こうから、サンタと子分のビーちゃんが出迎えた。
お姉さんは、門扉が開けっ放しになっていても外に逃走しなかった、サンタの頭をなぜて、
よし、サンタはえらい!立派な我が家の犬だと認めると、認定状を出した。
ビーちゃんは、サンタ親分が出なかっただけなのに、ビーちゃんも一緒に褒められた。
今、サンタの本当の歳は幾つか分からない。
サンタはユッコさんが行くと、必ず出てきて黙って立っている。
ユッコさんには、
『命をたすけてくれてありがとう、僕は幸せだよ。』
て言っている声が聞こえる。
さあ、サンタ、今日も散歩だぞ。
大きな夕日に向かってユッコさんと姉さんと、
七匹の犬の長い影が見える。
泣虫ユッコさんと、小さくても元々国体選手の元気なお姉さんと、先頭を走って行く足の長い犬。
我らがサンタ。
人生を諦めなかったサンタ。
夕日に向かって走れサンタ。
走れ
走れ
人間を疑わなかったサンタ。
それが最後の勝利者サンタなのです。
【追】
子供の頃、苦労したら必ず、大人になって幸せになれるよ。
だから、ひねくれたり、悪の道に入ったりしない事だ。
いじめなんて最低の人間がやる事だ。
いじめに加担するな!
いじめを黙殺するな!
自ら命を絶つなんて糞食らえだ!
絶対に幸せになる事を信じて生きて行く事だ。
そして、一番大事な事は、
人としての優しさと思いやりを忘れない事だ。
何より心が負けない事だ。
作・ユッコさん
サンタに会ったのは五年前の冬だ。
二月の寒い冬だった。
不動産会社のユッコさんは、ある中古住宅のオープンハウスを行った。
いつもの様にお客様を待っていた。
二月の寒い土曜日
四時頃になると、どの家も電灯が明るくつき始める。
ふと見ると売り出し中の反対側の古い家にガリガリに痩せ細った脚の長い犬が繋がれていた。
それはもうずーと百年も前から繋がれている様な様子だった。
その家だけが、何時になっても電灯がつかない。
真っ暗な家の片隅に小さな犬小屋と、やせ細った犬がいた。
ユッコさんは家主さんがまだ帰って来ないのだわと思いながら、夕方そのオープンハウス
を終了して会社に戻った。
翌日の日曜日
またオープンハウス
ユッコさんは、張り切って前日の売り出し現場へ。
気になる昨日のワン子の家、窓を見てもドアを見ても誰も住んでいるとは思えない。
だけど・・・
犬がいるし、誰も住んでいないなんてありえない。
柴犬に似たあのワン子余りにも寂しげだった。
夕方になってもその家の電灯は付かない。ユッコさん担当の住宅も売れなかった。
『来週も売り出しだ。』
なんて気持ちを取り直して、ユッコさんは、旗をしまって会社に帰った。
家に帰ってもあの犬の事が気になった。
あの家の人はもう帰って来たかしら・・・
一週間後、
又
ユッコ店長は、あの売り出し現場に居た。
あの一人ぼっちのワン子が気になって仕方なかった。
どう見てもあの犬は人に飼われているとは思えない。
汚な過ぎる。
痩せすぎている。
悲しそう。
淋しそう。
ユッコさんは、近所に人に聞いてみた。
『あー、あの犬、もう一年もこんな状態なんですよ。
この家、競売になっちゃって、持ち主は近くの県営住宅に住んでいるのだけど・・・・
この家が競売になってしまって、犬をおいて行ったのよ』
『エーッ!一年も?この犬一人ぼっち?そして、餌はどうしているのですか?』
『朝、持ち主が餌をやりに来て、少し散歩して、また縛って帰って行く様ですよ。
だから、近所の人が気が向いた時に、散歩してやってるのよ』
『エーッ!』
犬好きのユッコさんは、胸が張り裂けそうになった。
なんて可哀想な、
なんて酷い事を・・・
『あの犬の名前は?』
『あーサンタって言うのよ』
それがサンタとの出会いだった。
ユッコさんはお弁当の残りを持って、サンタに近づきました。
ウーッ
元気のない声でサンタは少し唸りました。
『おまえ一人で苦労したな、エラかったな、
淋しかったろう、寒かったろう、
これ食べるかい?』
お弁当の残りをこわごわサンタの前に差し出しました。
痩せこけたサンタは、ゆっくり警戒しながら食べ出しました。
ユッコさんは『そうか、そうか、一人で良く頑張ったなー、偉かった、偉かった。』
とずーっとサンタに話しかけました。
『お前寒かったろう、こんな北道路に一年も鎖で繋がれてたのか、良く頑張ったなー偉かった、偉かった。』
犬小屋の敷物は泥でびっしり。
何年も干してもらっていないのか固くなっていました。
『サンタ、私も一人だ。陽の当たる所に出ておいで』
サンタに話しかけながら、鎖を解き、陽の当たる所に連れ出しました。
私も今日、ここで売り出しだ。
二人並んで日向ぼっこだ。
サンタ、嬉しそう。
陽が当たって、嬉しそう。
サンタはユッコさんと並んでいました。
心が通じたと思いました。
その日もオープンハウス住宅は売れませんでした。
『サンタ帰るよ。』
泥んこの敷物もお日様に当てて少し消毒できたかな。
『また明日来るよ。』
『バイバイ、サンタ。』
家に帰ったユッコさん、サンタの事が気になって気になって、仕方ありませんでした。
翌日、
『また来たよ。サンタ!』
サンタも二日目は嬉しそう。すんなり小屋から出てきて、
今日も二人で日向ぼっこ。
二月の空は寒いけど、
陽が当たる所はいいねーサンタ。
ところでこの犬、
持主が競売でどうなっちゃうのー?
近所の人に聞きました。
『もう落札も決まったという事だし、三月には保健所だと思いますよー。』
『えー!保健所?
そっ、それはだめです。それはだめ!
こんな良い子を保健所なんてだめです!私が何とかしますので持ち主が餌をやりに来た時、
私に電話くれる様に伝えて下さい。』
一枚の名刺を近所のおばさんに託しました。
サンタ君、今日はこれでお別れ。
私が絶対救い出してあげるから、もう少し、頑張ってね。
私が絶対に迎えにくるからね。
ユッコさんは後ろ髪を引かれる思いで又、サンタを鎖につないで家に帰りました。
飼い主が電話をくれるかしら。
保健所につれていかれないかしら。
毎日、毎日、心配でサンタの事を考える日々でした。
三日後の夕方、飼い主から電話が・・・
ボロボロ泣いていました。
『どうか飼って下さい。お願いします。』
『ハイ、喜んで飼わせて頂きます。安心して下さい。』
ユッコさんの腹は決まっていました。
善は急げ!
翌日ユッコさんは、お姉さんに頼んで、大きな車を出してもらい、
サンタが心配しない様に汚い犬小屋を乗せてもらいました。
サンタはユッコさんの車に乗せました。
『サンタ行くよ!』
サンタは何のためらいもなくユッコさんの車にポンと飛び乗りました。
ユッコさんとサンタはずーっと昔から知ってる様な、
前世から知り合いだった様な、不思議な感じを受けました。
持ち主から聞いた事、
サンタは六年前の十二月二十四日、クリスマスの日に、
小学生の裕太君に道端で拾われたそうです。
だから名前はサンタ。
裕太君の住まいは県営住宅、犬を飼ってはいけない住宅。
最初はこっそり飼っていたそうです。
六ヵ月位するとサンタは、みるみる大きくなって、
とても県営住宅では飼えない程。
そこで、裕太君のお父さんの勤めている会社の工場に置かれたそうです。
昼間は人がいても夜になると人っ子一人いなくなってしまう工場に番犬として三年間置かれたそうです。
どんなに淋しかっただろうねサンタ。
サンタの我慢強さはこの頃出来上がったんだね。
三年後、
その工場が閉鎖になり、サンタは、居場所が無くなりました。
次にサンタはお父さんの知り合いの中小企業の社長さん宅に預けられました。
北道路玄関脇の堀と家の間に縛られました。
二年後、今度はその家が破産。
その家の人はどこかへ。
サンタは一人残されました。
近くに住んでいた裕太君の家族が一日に一回餌やりと散歩に来てくれたけれど、後は一人ぼっち。
泣いても、
吠えてもだーれも助けてくれない。
孤独の日々が一年も続きました。
でもサンタは、決してひねくれなかった。
決して人間を疑わなかった。
産まれた時のまま、黙って、
ただ黙って自分の人生を受け入れていたんだね。
体はボロボロ、ガリガリ、シャンプーなんてした事ない。
何か様子がおかしい。
ボクの命はどうなるのか?
そんな時、ユッコさんと会ったんだね。
サンタは分かったのさ、この人がボクを救ってくれるって。
だからユッコさんが車で迎えに来た時、
ポンと車にのったのさ。
さて、夢中でサンタを家に連れて帰ってきてしまったユッコさん、ハタと考えた。
ユッコさんの家は外階段の小さな小さなビル。
一階がテナントで
二階がユッコさんの不動産会社、
三階が住まいというもの。
空地なんてまったくない。
それに家の中には、
気楽なミニチュアダックスフンドが二匹。
とても家の中では飼えない。
まず、ミニチュアダックスフンドのダンディー君とジャーニーちゃんはあちらの部屋に。
その間に、サンタ君お風呂場に直行!
まずサンタ君を洗わなくちゃ。
ユッコさんのお姉さんは、シェパード、ハスキー、ポメラニアン、
パピヨン、シーズーと五匹も飼っている犬歴三十年の大ベテラン、
という事でサンタ君のシャンプーを頼みました。
生まれてから一度も洗ってもらった事のない
サンタはビックリ仰天。
でもユッコさんもいるし、おしんの様に耐えました。
『あらーこの犬こんなに白かったのー?』
なんときれいなハンサム犬。
そうです。ホントのサンタはこんなに綺麗な犬だったのです。
空地のないユッコさんはサンタをビルの階段に置きました。
家の中は、ダンディー君とジャーニーちゃんが、怪しい犬がドアの向こうにいるとワンワンキャンキャン大騒ぎ。
おとなしいサンタはちび犬達に吠えられて嫌だったね。
サンタがブルブルってするとサンタの毛がパーっと飛んでいって隣の家のベランダの洗濯物に。
ユッコさんは頭を痛めました。
これでは隣の家から苦情がくるのはもう時間の問題。
何か次を考えなくちゃ。
おう、ℊood idea!
ユッコさんの会社は、不動産会社。
丁度、会社の後ろに、管理をさせて頂いているアパートが一棟。
そうだ!あのアパートのどんな片隅でもいいから犬小屋を置かせてもらおう!
だけど断られたらどうしよう?
オーナー様お願い。祈る気持ちで。
まず電話。
『もしもし、荒井ですが、お願いがあるの。』
『良いわよー。』
『えー、私、まだ用件は言ってませんが。』
『良いのよ、荒井さんのお願いなら何でも良いのよ。』
『ありがとうございます♡♡♡てな訳でアパートのどんな片隅でも良いから、犬小屋を置かせて頂けませんか?』
『なーんだそんな事。丁度、自転車置場に屋根が付いているから、その下に置いて良いわよ。』
ありがとう齋藤さん、なんて良い人!
という訳でサンタは又々、救われました。
サンタはアパートの住人になりました。
アパートのオーナーの息子さんが一〇三号室住人?サンタと書いてくれました。
良かったねサンタ。
優しいみんなのお蔭で命が助かったね。
ユッコさんは奮発して新しい犬小屋を買いました。
サンタが来た事でアパートの住人が会話をする様になりました。
今日はサンタがこうだったの。昨日はサンタがああだったと、みんながサンタ良い子、ハンサム、サンタは他の犬と違う、
やっぱり苦労したから、人間ができているなんて、
みんなに褒められて、サンタ嬉しそう。
朝はユッコさんや、事務員の笹本さんが散歩してくれたり、
夜は、ユッコさんの愛犬、ダンディー、ジャーニーと一緒にお散歩さ。
最初はダンディー君に吠えられたけど、僕は平気さ。
誰とでも仲良くなれるから。
ユッコさんは大変さ。
1日十一時間位働いているから、散歩は夜の
十一時なんてザラさ。
そんな事より、ユッコさんは、胸を痛めていました。
サンタと同じ家に住みたい。
あのアパートが空いたら私が借りようかなーとか、
こんな小さなビルじゃなくて一戸建ての家が欲しい。
玄関越しに飼い主がいる生活をサンタにさせてあげたい。
大風が吹くと、サンタが寒くないか?
雨が降ると、大丈夫か?
雷が鳴ると、サンタは怖くないか?
雪が降ると迎えに行き、家の玄関に入れたり。
少し離れた距離にいるサンタが心配で不憫で・・・。
サンタの生い立ちを思い出し、サンタは飼主と離れて生活しなければならない星の下に産まれたのかなー?
ユッコさんの二匹のダックスは本当に幸せ。
ユッコさんに甘えて、抱っこされて
、散歩に行きたければ玄関の方に飛んでいって、ワンワン吠えて、自己主張して、
それに比べたら、絶対わがまま言わないサンタ。
人生はもっともっと楽しいんだよーって教えてあげたい。
ユッコさんは定休日の水曜日、二匹のダックススフンドを連れて、お姉さんの犬達と一緒に、伊奈町の畑を散歩するのが日課。
それが楽しみ。
犬が喜ぶのが一番の幸せ。
犬だって笑うんだもの。
次の水曜日、サンタもお姉さんの犬達とご対面させなくちゃー。
それはもう大変。
サンタ君、みんなに吠えられて、リードをといたら噛まれそう。
みんな仲間に入れてくれるかしら。
それでも少しずつ慣れてきて
毎週水曜日、八匹で一緒にお散歩です。
サンタ
こんなに自由に飛び歩いていいんですか?
こんなのボクの人生初めて。
楽しいなー、嬉しいなー
あれー鴨だー
ポンポンバシャーン
『あー落ちた!』
『サンタッ サンタッ サンターッ!』
サンタは川の中
エー葦だと思ったら、下は川だった。
けっこう流れが強い。
ユッコさんは叫びながら。
『サンターッ サンターッ、』
葦の茂みから、サンタの必死な顔。
ユッコさんは、サンタの首輪を持って思い切り、引き上げました。
サンタも今までにない真剣な形相で、
やっと、土の上に。
『サンタのバカバカ、』
腰がぬけて、声がかれて、泣いてしまったユッコさん。
サンタも川ってこんななのー
あー怖かった。
サンタもう、綱から離れてはいけないよ。
楽しいなこんな楽しい世界があったんだ。
こんな楽しい散歩があったんだ。
サンタ初めての体験でした。
それからだんだん慣れてきて、お姉さんの犬五匹も
みんな仲間と認めてくれて、
楽しい日々。
でも帰ってくると、アパートの傍。
『ユッコさん バイバイ』
『サンタ バイバイ』
サンタと別れて、家に帰るユッコさん。
いつも胸が痛い。
ダンディーとジャーニーは良いなー。
ユッコさんと一緒の家で、一緒の部屋で。
サンタ、ごめん。
サンタのアパート暮らしが始まって二年経った頃、
一緒に散歩していたハスキーのももちゃんが老衰で十六年の命を終えたんだ。
お姉さんは大泣きだ。
大型犬のシェパードのメリーちゃんも泣いていた。
他のちび犬も何か変だよって元気がない。
でも気を取り直して、毎週水曜日はお散歩さ。
今度は、お姉さんの犬とユッコさんの犬七匹になってしまったけれど、
七匹で頑張ろう。
ももちゃんの死から四ヶ月後、
あの前日もみんなでお散歩に行ったのに
元気で走っていたのに
シェパードのメリーちゃんは、その夜中、
突然死してしまったんだ。
朝起きたら、眠るように冷たくなっていた。
メリーちゃん・・・
お姉さんはがっかりして、一年に二匹逝ってしまうなんて。
お姉さんの家はユッコさん宅と違って、二百坪の大型住宅。
ワンコ達は、綱無しで、元気に走り回れるの。
いつだって、自分の意志で動けるの。
暑ければ木の下の涼しい所を見つけて移動。
寒ければ、フカフカお布団の犬小屋さ。
そしてなんと言っても毎日一時間半のお散歩。
サンタはアパートの鎖につながれて半径一メートルが動ける範囲。
ユッコさんはサンタをお姉さんが飼ってくれたらって、心で祈っていたの。
綱に縛られないで、自分で走り回れる生活もあるよーってサンタに教えてあげたい。
もう、工場で繋がれていた頃みたいに、金属で殴られる事なんて無いよって、
ユッコさんと夜の散歩の時、
金属音がすると飛び上がって怯えていたサンタ。ダックスフンドのジャーニーとダンディーは、
金属が自分を殴ってくるなんて知らないから全然怖がらない。
過去に殴られた記憶のあるサンタは、金属音でパーンと飛びのいて怯えてる。
サンタ過去に何があったの?
大丈夫だよ。
あれは過去の事。忘れてしまいな。
お姉さんは泣いていました。
一年に二匹も大型犬が亡くなるなんて。
でもやけくそになって
『今度はゴールデン飼うから良いよー』
なんて強がっていた。
ユッコさんは心の中でサンタを飼ってくれないかなー
犬の気持ちが分かる姉さんが飼ってくれたら
サンタは幸せになれるのにーサンタは雑種だから駄目なの?
『姉さん、防犯上も悪いから、サンタ貸し出すよ。』
と、ユッコさん。
『そうねーゴールデン飼うまで。』
と、姉さん。
『サンタ、姉さんが気落ちしているから、姉さんの家行って来るんだよ。』
ユッコさんは泣いていました。
サンタは可哀想。私も一緒にいたいけど、
サンタはアパートの住犬。
サンタお姉さんに気に入ってもらえると良いね。
こんなに性格が良い子なのにね。
サンタは不思議そうでした。
そりゃー毎週散歩しているから、お姉さんの家は知っているけれど何でユッコさん帰っちゃう訳?
サンタ許してね、サンタ、アパートにいるの
幸せでしょうけれど、お姉さんに飼ってもらえたら、もっともっと幸せなんだよ。
一人で車に乗ったユッコさんは泣いていた。
サンタはもうアパートには戻らないって。
捨てたんじゃないんだよ。
また来週一緒に散歩できるよ。捨てたんじゃないよ。
サンタの本当の幸せを思っているんだよ。
ユッコさんはただ泣きながら車を走らせていました。
一週間後の水曜日また、サンタに会いに、そしてみんなで散歩。
お姉さんが言いました
『サンタ、いい子だから飼うよー』
サンタ、良かったねー
今まで本当に辛抱辛抱の人生だったねー。鎖なしで、庭を走り回ってメリーちゃんや、ももちゃんの様に月一回のシャンプーに美味しいご飯。毎日一時間半以上の散歩。
サンタは最後の勝利者だね。
サンタ偉かったね!
今まで自分の運命に文句も言わず、泣き言言わず、自分の運命を素直に受け入れて、黙っている。
ひねくれず、意地悪にならず、ひるまず、がっつかず、サンタに色々な事を教わったよ。
サンタが来て二日後、
お姉さんは、裏の畑をやっていたおじさんが
病気犬の面倒を見られなくなったので、飼って下さいと
庭に太ったビーグル犬を置いて行かれた。
その名はビー。
サンタはたった二日で子分が出来てしまった。
闘争心ゼロの太ったビーちゃん。
サンタがお兄さんだと思っていつもくっついている。
サンタが右に走れば右へ、
左に走れば左へ。
サンタはビーをイジメル事なく、すんなり受け入れた。
サンタがお姉さんの家に行くことになって正式にアパートの住民の方々と、ユッコさんの事務所で「サンタのお別れ会」をやった。
お姉さんの家から一時帰宅したサンタをかこんで、
まさやさんの奥さんは泣いていた。
ユッコさんも泣いてしまった。
だけど、サンタはアパートにつながれているより間違いなく幸せだとみんなの意見。
みんなサンタを思ってのお別れ会。
みんなでサンタをお姉さんの家に送って行きました。
なかなかお名残惜しくて、またお姉さんの家でサンタを交えてお別れ会の続き。
『これなら本当にサンタは幸せだ。』
南道路の広い芝生の庭。サンタ、苦労したかいがあったね。
走り回るサンタ。
毎週水曜日は、今まで通り伊奈町の畑散歩しようね。
お姉さんの一番犬、アトム君。お姉さんの従業員に捨てられたパピヨンのココちゃん。
おばあちゃんのポメラニアンたっくん。それに我アイドル、サンタ君。
サンタの子分のビーグル、ビーちゃん。ユッコさんの愛犬、ジャーニー、ダンディー。
みんな犬には犬の人生あり。犬生かな?みんな人間の都合で捨てられたり、いじめられたり、殺されたり。
人間の世界も大変なのさ。
生きるって事は、色々な事がのしかかってくるんだ。親に捨てられたり、リストラになったり、
一家離散になったり、病気になったり、愛する人に死なれたり、色々な事があるんだ。
だけど、
サンタの様に、文句も言わず、
寒い北風に耐えぬいた者が絶対に最後の勝利者になるんだ。とサンタが教えてくれた。
ある日、お姉さんが門扉を閉め忘れて出掛けてしまった事があった。
お姉さんが帰ると開け放しの門扉の向こうから、サンタと子分のビーちゃんが出迎えた。
お姉さんは、門扉が開けっ放しになっていても外に逃走しなかった、サンタの頭をなぜて、
よし、サンタはえらい!立派な我が家の犬だと認めると、認定状を出した。
ビーちゃんは、サンタ親分が出なかっただけなのに、ビーちゃんも一緒に褒められた。
今、サンタの本当の歳は幾つか分からない。
サンタはユッコさんが行くと、必ず出てきて黙って立っている。
ユッコさんには、
『命をたすけてくれてありがとう、僕は幸せだよ。』
て言っている声が聞こえる。
さあ、サンタ、今日も散歩だぞ。
大きな夕日に向かってユッコさんと姉さんと、
七匹の犬の長い影が見える。
泣虫ユッコさんと、小さくても元々国体選手の元気なお姉さんと、先頭を走って行く足の長い犬。
我らがサンタ。
人生を諦めなかったサンタ。
夕日に向かって走れサンタ。
走れ
走れ
人間を疑わなかったサンタ。
それが最後の勝利者サンタなのです。
【追】
子供の頃、苦労したら必ず、大人になって幸せになれるよ。
だから、ひねくれたり、悪の道に入ったりしない事だ。
いじめなんて最低の人間がやる事だ。
いじめに加担するな!
いじめを黙殺するな!
自ら命を絶つなんて糞食らえだ!
絶対に幸せになる事を信じて生きて行く事だ。
そして、一番大事な事は、
人としての優しさと思いやりを忘れない事だ。
何より心が負けない事だ。