届かない 犬のしいき声
アナタ焼けた鉄板の上を歩けますか?~ 
 
                                    作・ユッコさん
 


 
 
今年の夏のある日 37℃ 晴天
午前10時、酷暑の中、銀行に行く為に、駐車場を出て、いつもの様に、いつもの一方通行を走って行った。
暑い為、歩行者もそれ程いない道。
反対側から、柴犬を2匹連れた初老の男性が歩いて来た。
『アスファルトの表面温度は何度だろう!!』
私は驚いてその柴犬を見た。2匹共少しも幸せそうではない。
飼主の後を歩いている内1匹は、ヨロヨロと少し引きずられている様な感じ!
私は、『エー、この時間の炎天下、傘も差さず、犬を歩かせている人がいるなんて!!』驚いたが、声をかけられず、何とも切ない思いで銀行に向かった。
『どうかあのおじさんが、この炎天下で犬を歩かせません様に』
心の中でそう祈りながら、アクセルを踏んだ。
頭から犬の事が離れないが、銀行でひと仕事をこなし、 次の仕事に向かった。
それも終わらせて、会社に戻った。
あれから、1時間15分位経過していた。
駐車場に入る一方通行に曲がると、はるか前を、あの10時頃見た柴犬2匹とそのおじさんが前を歩いていた。
私は驚いて、『エー、あのおじさん今迄ずーっとこの暑い中を歩いていたの?!』
なんと可哀想な犬達!!
私はいつもの所定の駐車場に車を止めると、急いで日傘を2つ持ち、その柴犬を追いかけた。
『すみません、私この大成3丁目で商売をしております、荒井由起子と申します。仕事以外に犬が好きなものですから、犬を助けるボランティアをやっているのです。この炎天下で犬を散歩させたら、犬は足の底を火傷してしまうのですよ。』
私は必死で話しかけた。
見たらおじさんも頭から、顔から、汗がダクダク。
犬はもう引っ張られ、意識が上にあがってしまっている様子。
『散歩じゃないよ、動物病院に行ってきたんだよ。』
と無愛想に答えた。
『あっ!そうですか、どこの動物病院ですか。』私が聞くと、
『言わない!』とおじさん。
『ワンちゃん具合悪いのですか?』
『定期健診。』とおじさん。
『そうですか、今度、病院にお連れする時、私車でお送りしますので、声かけて下さい。私車出します。』
おじさん、うるさいという表情。
『それで、ワンちゃん大丈夫だったのですか?』
『大丈夫だよ。』とおじさん。
『そうですか、それは良かったです。』
『車はお持ちなんですか?』
『あるよ』
『そうですか、ところで、このワンちゃん何才ですか?』
『6才』
『そちらの子は?』
『4才?』
明らかに迷惑そうなそのおじさん。
余計なお世話だ、俺の犬だ、という感じ。
このアスファルトの道にこの時間。日影は一切ない。
 

 
丁度、おしゃれな家の前にさしかかった時、小さな木の、小さな影があった所に来た時、そのヨタヨタの6才の犬が休みたそうな素振りをしたが、そのおじさんは何ら歩行も緩めない。
犬はまた引っ張られて歩く。
私は、『ほら、このワンちゃん休みたいのですよ。』
おじさん無言。
私は何とかそのおじさんに理解して頂きたくて、
『犬はこの炎天下、毛皮を着て歩いているのですよね、裸足で・・・』
必死で説得した。
その後は、記憶にない位、必死に話した。
T字路の信号が近付いて来た時に、
そのおじさんが
『あんた、ここで帰ってくれよ』と言った。
私は、名刺をお渡ししようと思ったが、
『分かりました、ごめんなさいね。』と言って、止まった。
そのおじさんは何ら足を止める事なく、ずーっと同じ様に2匹の柴犬を、この猛暑の中、北の方に向かって歩いて行った。
私はずーっとその後姿を見ていた。
人生を諦めた様に、ただただ歩いている2匹の犬の後姿と、飼主のおじさんの後姿を見送るしかなかった。
 

 
犬は話せない。
飼主が行くと言えば、どんなに辛くても行かなくてはならない。
犬の定期健診に行く位なのだから、本当は優しい人に違いない。
ただ、飼い方を知らないだけだ。
あのおじさんは、本当は良い人なのだ!
でも、あの犬は早く命を落としてしまうだろう。
暑くて、暑くて、大変だね。
家に帰ったら、エアコンの部屋に入れてもらっているのだろうか。
あの様子では外飼いだね。
暑くて、大変だね。
助けてあげられなくて、ごめんね。
ごめんね、本当にごめんなさい。
私は涙が出た。虚しい気持ちで会社に戻り、スタッフに今起きた事を話した。
しばらく仕事をして、3時迄に再度、銀行に行く仕事が入った。
銀行の人にアレッと言われ、『そうなんです、今日は午前も午後も銀行なのよ』と言って、振込を終え、銀行の駐車場を出て来た所、
前方に又、白とグレーのフワフワの毛皮の中型犬を散歩させている60代の女性を発見!!
その犬も力なく、ヨロヨロと少し足を上げ、おしっこポーズをしたが、炎天下、歩きたくないと止まってしまった。
その初老の女性が紐を引っ張っている時間を見たら、2時40分。
まだまだ暑い!!
私!又、これで2回目。一体、今日はどうなっているの?!
この酷暑の中、犬を散歩している人を、午前も午後も見かけるなんて。車を止めて、注意しようとも一瞬思ったが、午前中の嫌な記憶が蘇り、アクセルを踏んで、見て見ないフリをするしかなかった💧
これは私が一人一人に注意をするのではなくて、動物愛護を公の機関で呼びかけない限り、変わらないと思った。
会社に戻ると、社員の一人が“僕たちは裸足です”と沢山のワンコのイラストのサイトを見せてくれた。
私は胸が苦しくて、即、目を逸らした。
 
愛犬家の皆さん、考えて下さい。
あなたも毛皮を着て、頭も毛皮の帽子を被って、裸足でアスファルトの上を歩いてみて下さい。
可愛いワンコの苦しみが分かると思います。

↑これと同じです。
 
今日は7年前の夏の日に助けた甲斐犬の足の底が血だらけだった事を思い出した。涙💧💧💧
 
あの時の甲斐犬は今も幸せに暮らしている。