クロちゃん  
                                    作・ユッコさん
 
出会って7か月位のクロ
 
は捨てられた。
 
は黒い雑種の雄犬!
ある8月の暑い日、僕の飼主お母さんは僕をさいたま市の三橋公園に繋いだんだ。
愛犬家が公園に入って行く道に。
僕のお母さんは僕を繋いで行ってしまった。僕はホンの冗談だろうと思ったんだ。
だけど・・・お母さんは僕を公園入口に繋ぐとさっさと行ってしまった。
『そっ そんな すぐ戻ってくるんでしょう・・・』
だけどその日お母さんは僕を迎えに来てはくれなかった。
 
腹も空いて、喉も渇いて、僕は大声で鳴いたんだ。
『お母さん早く来て~どこに行ったの?』って。
だけど、その日お母さんは現れなかった。
その日は公園に繋がれたまま夜を迎えた。
僕はお腹も空いて怖いし眠れなかった。
夜中トイレもぎりぎりまで我慢した。
仕方なく、なるべく網から離れた所に用を足した。
 
になってもお母さんは現れなかった。
『お腹が空いたよ~!散歩もしたいよ~!』
僕は鳴いた。
オオ~ン オオ~ン
だけど・・・お母さんは帰ってこなかった。
 
の日もその次の日もお母さんは帰ってこなかった。
夜、僕は怖くて怖くて眠れない。
お腹も空きすぎて、眠れない。
『怖いよ~!』
僕は何度も鳴いたんだ。
お母さんって呼んだ。
だけど、お母さんは戻ってこなかった。朝になった。
僕はお腹が空きすぎて、もう死ぬかもしれない!
 
れなのに、僕の前を幸せそうな犬が飼主さんに連れられて公園に入っていく。
僕は一人ぼっち・・・
もう三日もご飯を食べてない。
意識がもうろうとしてきた。
僕は力尽きて鳴く元気もでない・・・
僕は地面に顎をつけて動けない。
 

 
は何か悪いことをしたのかな?
僕はいけない子だったんだ!だから僕はここで一人ぼっちなんだ。
僕は痩せ細って、お尻には毛が一本もない。
お猿さんみたいにお尻が丸見え、膝から下の毛も抜けて、ボロボロだ。
体中痒くて、掻いても掻いてもおさまらない。
だからまた毛が抜けるだろう?
だから僕は益々醜い顔さ。
ウンチもオシッコもその辺で、酷かった。
散歩もたまにしかお母さんがしてくれないから、お母さんウンチだよって僕が吠えたからいけなかったんだね。きっと・・・
たまに散歩してくれると嬉しくてどんどん引っ張ってしまったから、僕は捨てられてしまったんだ。
今から僕引っ張るのをやめるから、お母さん迎えに来て。
一生のお願いだよ。
僕は疲れと空腹と恐怖で記憶が薄れそうになった。
でも、その時声がしたんだ。
 
「あれっ!まだこの犬繋がれている。きっと捨てられたんだよ。」
ワイワイガヤガヤ
気が付くと僕の前に見知らぬ子供達が立っていて、僕の事を話しているんだ。
僕は初めウワンウワンって吠えたんだ。
『僕に近づくなっ!』って。
だけど、その子供たちは僕に水を持ってきてくれたんだ!
僕は思い切り飲んだよ
ガブガブガブガブ
ああ、有難いって心からそう思ったよ!その子供たちは近くの中学生だった。
夕方になると、その子供たちの一人が僕の大好きなドッグフードを持ってきてくれたんだ。
アーッ、美味しい!何日ぶりのご飯だろう?
ガツガツガツガツ  ぺろり!
ワーイ!ありがとう!
 
た夜になった。
怖い
また、一人ぼっち
『怖いよ!お母さん!』
僕は鳴いた、吠えた、呼んだ。
また朝になった。僕の前を幸せそうな犬たちが何匹も通る。
僕は一人ぼっち・・・淋しい・・・
僕も誰かに甘えたい。あの犬みたいに
振り返ってみれば、僕の人生で可愛がられた記憶がない。
いつも吠えるな!あっちへ行け!こっちへ行け!叩かれて、叩かれてでも僕は耐えてきた。
それしか方法がないから。
それしか知らないから。
それしか、生きる道がないから・・・
 
の顔は不細工。全身黒くて眼が吊り上がって怖い顔。声が大きくていつも殴られた。
でも、たまに餌がもらえるとそれだけで嬉しかった。
だけど僕の体の毛はあっちこっち抜けてしまっていた。
そして、僕は捨てられた。
信じていたお母さんから、捨てられた。
 
てられて4日がたった。
いつもの中学生の女の子がまた、水とドッグフードを持ってきてくれた。
一日一回だったけれど、僕にとってはご馳走だった。嬉しかった。
僕はその女の子のおかげで死なずにすんだ。
 
はその女の子を待つようになった。僕はその女の子が来ると嬉しくて、飛びついた。
女の子は僕を『ココ』と名付けた。
またここに居たから『ココ』だって!
でも僕は名前なんかどうでも良かった。
毎日餌が貰えればそれで良い。
捨てられてちょうど7日経った。
僕を名付けた女の子は、僕を繋がれていた棒から外してくれた!
僕はグングン引っ張った。
何処へ行くんでもいい。
とにかく、この場所から遠くへ行きたかった。
 
ングン引っ張った。力の限り引っ張った。
 
どり着いたのは、女の子の住むアパート。その女の子はお母さんと二人暮らしだった。
驚いたことに、アパートのドアを開けると、僕とまったく同じような真っ黒な犬がいた。
その犬は太っていた。その先輩犬は僕を見てとても怒っている。
『おまえ、何しに来た!出ていけ!ワンッワンッ』
僕は喧嘩しない!僕の頭の中には喧嘩をするDNAは無いんだ。
だから僕は絶対に喧嘩しない!
だから・・・僕をここにおいて下さい。
僕には行く所が無いのです。
 
の女の子とお母さんは言い合いになっている。
それも僕が原因みたいだ。僕は肩身が狭くなる。僕の事で喧嘩しないで・・・
フムフム、よく話を聞いてみると、この親子は二日後に新しいアパートに引越すらしい。
犬を一匹しか飼ってはいけないアパートに引越すのに、もう一匹拾ってきてどうするとお母さんが怒っていて、女の子は下を向いて泣いている。
『喧嘩をやめて!』僕は大声で吠えた。
翌日、僕は猿轡で口を塞がれた。
僕は塞がれた猿轡の中から、思いっきり吠えた。ヴァウ、ヴァウ。
 
越しの日を迎えた。
一匹しか飼えないアパートで、僕がいる事が分かったら大変なトラブルになるからと、僕は隠される事になった。
 
んと、灯油缶を入れるようなコンテナに入れられて、上からダンボールの板で蓋をされ、口には猿轡!死ぬかと思った。
僕は、引越し先のアパートの専用庭にそのまま置かれた。
近所の人々には、僕はいない事になっているらしい。
8月のこの暑さ!そして南向き!僕はイライラして、猿轡の中から思い切り吠えた。
『暑くて死んじゃうよ!』
 
が鳴きやんだその時、
「こんにちはー」
不動産屋のユッコさんが現れた。
僕はヴァンッ!ヴァンッ!ダンボールの板をけ破って思い切り吠えてやった。
「キャーッ!」
どうだ、怖いだろう!
ユッコさんは飛びのいて驚いている。怖がっている。
『ヴァンッ!ヴァンッ!』
暑さでイライラしていたんだ、思い切り吠えてやる!
 

 
ばらくして、アパートのドアからお母さんが困った顔で出てきた。
「あらどうも、先程引越しが終わりました。」
ユッコさんは僕を見て「そうですか、ところで何ですかこの犬。この子が全然吠えないという犬ですか?」と言い、
お母さんは「違います、この犬じゃありません。」と答えた。
「では、許可した犬はどこですか?」とユッコさんが尋ねると、
「ハイ!これです」と玄関からあの太った先輩犬を連れて見せている。
「じゃあ、この犬は何なんですか?」と聞かれて、
お母さんは「引っ越す2日前に娘が拾ってきてしまい、娘に泣かれたのですが明日の午前中に保健所が引き取りに来る事になっているのです。」と答えた。
 
『えぇっ!僕は保健所に行くの?』
僕は泡を飛ばしながら思い切り吠えた!すると、
そんなのダメですよ。どうしてすぐに生き物を保健所になんて出すのですか?それに、こんな酷い飼い方をして!あなたもこの暑い中で毛皮を着て猿轡して、このコンテナの中に入ってみて下さい!暑くてすぐに死んでしまいますよ!」とユッコさんは怒った。
 
『そうだそうだ!僕は暑くて死にそうなんだ!』
ヴァンッ!ヴァンッ!
この時は、まさかユッコさんが僕を飼ってくれるなんて思ってもいなかった。
ただ、僕はこの暑さから逃れたくて。
とても気が立っていた僕は牙を剥いて吠えまくった。
 
ッコさんは帰ってしまった。
「なんだ、ここから出して助けてくれるのかと思ってたのにダメか。吠えまくった僕の迫力に負けたんだろう!」
そう考えていた。
 
5分もしないうちにユッコさんが戻ってくるまでは。
 
ッコさんは、僕が今まで見た事も味わった事もないような美味しい物を持ってきた。
「はいっ!」
『美味しい!何これ?』
パクパク、パクパクと食べ終えると、ユッコさんは次々僕に差し出してくれる。
僕は吠えるのも忘れて、ただその美味しい物に食らいついた。
それはソーセージという物なんだって、僕は後から知ることになる。
 
にかく、それで僕は一ころでユッコさんに落ちてしまったのさ。
 
ッコさんの家は3階建の小さなビルで、僕を飼える場所なんてなかった。
それで、ユッコさんは会社の裏のアパートの大家さんに聞いたんだ。
「また犬を拾ってきてしまったので、アパートの隅に置かせて頂けませんか?」
 
家さんは「良いですよ。但し、他の住民の方に挨拶をしておいて下さいね。アパートの住民に絶対に迷惑を掛けない様にお願い致します。」と言って、許可を出してくれた。
 
ッコさんは大きな梨を沢山買って、アパートの住人に1軒ずつ挨拶に回っていた。
それは全部僕の為だったけれど、当時はそんな事知らなかった。周りの事なんて全く見えていなかったんだ。
僕はこの先どうなるんだろうって、気にかける事もできないほど毎日不安に駆られていたから。
 
の日から、僕はムーンヒル大成という古いアパートの隅に移り住む事になったんだ。
とりあえず、暑いコンテナ生活からは脱出できたのさ。
ある日、ユッコさんが何処からか犬小屋を持ってきて、僕に入る様に言った。
犬小屋に入ると、僕は少し懐かしい気持ちになった。
前にもこんな犬小屋に入っていた気がする。昔の思い出がよみがえる。
僕を置いていってしまったお母さんは元気でいるのかな。
会いたいなぁ。
 
して、僕は犬小屋に入るようになったけれど、ふと怖くなってしまう。
なぜだか分からないけれど不安になってしまって、ワンワンと大声で鳴いてしまうんだ。
そうすると、ユッコさんは困った顔をしてやって来る。
時には怒ったり、時には僕の大好きな牛乳を持ってきてくれたり。
だけど、お天道様と一緒に起きるのが自然だから、朝5時頃になると僕は起きてしまう。少しは我慢できるけれど、6時頃にはトイレに行きたくなるし、ご飯も食べたいし、不安になるしでまた大声で吠えてしまうんだ。
そんな時でも、朝に弱いのを我慢して、ユッコさんはヨロヨロした足取りをしながらも散歩に連れて行ってくれた。
散歩が終わって繋がれると、また僕は吠えてしまうんだけれどね。
 
の声が大きいのは僕のせいじゃない。僕のお父さんとお母さんのおかげだよ。
お父さんとお母さんは知らないけれど、僕のせいじゃないんだ。
 
けど、苦情が来てしまった。
 
ーンヒルのアパートじゃなくて、少し離れた別のマンションから。
声が大きいのは僕のせいじゃないのに、みんな分かってくれないんだ。
 
んなわけで、ユッコさんは自分のビルの2階、外階段の踊り場に犬小屋を移動させた。
そこに移ってから、僕は少し落ち着くことができた。
何かあったら、ユッコさんがすぐ来てくれたから。
ご飯はきちんと朝夕たっぷり食べられるし、散歩もたくさんしてくれるし、
ユッコさんの会社の人も僕のことをクロ、クロって可愛がってくれて、
僕は初めて嬉しい気分になった。
 
して、僕の名前は『クロ』に決まった。
 

 
はもう、お腹が空きすぎて背中とお腹がくっついちゃうよ~って心配もなくなったし、
トイレも一日2回、必ず行ける。
それに、ユッコさんは散歩の間中、
「クロ可愛いね!良い子良い子。可愛いねぇ」って呪文のように言ってくれるんだよ。
散歩は40分、その間ずーっとね!
 
は昔の癖が治らなくて、グングン力任せに引っ張ってしまう。
すると、ユッコさんはいけないと綱を引きながら、「よーし、良い子良い子、クロ可愛いね」って言うんだ。
 
んな風に褒められ続けているうちに、僕はユッコさんの言う通り、
良い子なんじゃないかと思うようになってきた。
生まれてこの方、『可愛い』『良い子』なんて言われることのなかった僕は、
最初はどんな意味なのか分からなかった。
だけど、ユッコさんは散歩が終わると僕の体を全部綺麗に拭いてくれて、また僕を褒めてくれる。
「クロちゃんクロちゃん、どうしてこんなに可愛いの~」
なんて言うもんだから、誰だって悪い気はしないでしょう?
 
んなわけで、僕の毛並みはどんどん良くなっていった。
お猿さんみたいに丸見えだったお尻の毛も、抜けてボロボロだった足の毛も全部生えて、
背中もお腹も頭も尻尾もピカピカのフサフサさ。
今じゃ散歩していると知らない人が寄ってきて、綺麗な犬ですねって言われるようにまでなったんだ。この間なんて、中学生くらいの女の子が数人追いかけてきて
『かっこいい犬』だって!僕はビックリしたよ。
 
の僕には不安や心配が全くなくなった。
月一度のシャンプー・カットだって、じっと耐えてやってやる。
ドッグサロンは嫌いだけど・・・
 
は決めた。
 
は生まれて初めて心が安らいだ。ユッコさんは絶対に僕を捨てない。
 
から僕は、ユッコさんを守るんだ。
 
階に怪しい奴が上がってきても、ユッコさんの住む3階までは絶対に上がらせないぞ!
ヴァン!ヴァン!ヴァン! ヴァンッ!!思いっきり吠えてやるんだ!
だけどユッコさんが「クロ、良いのよ」って言ったら、やめる。
僕はユッコさんを困らせない。もっともっと良い子になって、ユッコさんに尽くすんだ。
 
はユッコさんの言う通り、
世界一可愛くて世界一良い子なんだから。
 
は、生まれてきて本当に良かった。
そう思って、毎日幸せに生きている。
 
までの人生、いや犬生は辛い事が多かった様に思う。
だけど、今思えばすべてはユッコさんに出会うための苦労だったと思える。
神様に今の幸せを貰うための道筋だったのだと。
 
からこそ僕は、昔の辛かった生活も、捨てられて泣いていた日々にも、
すべての経験に感謝している。
 
べての事に感謝している。
 
クロ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その後、グングン引っ張って4回も転んで怪我をしてしまったユッコさんは、上尾にある警察犬養成所に預けた。6ヶ月間!
 
「クロ、また捨てたんじゃないのよ。クロちゃんが引っ張らないでお散歩ができる様に訓練する為よ。捨てたんじゃないのよ。また捨てられたと思わないでね」
 
そんな思いでユッコさんはクロを警察犬養成所に預けた。
3ヶ月は会いに来ないで下さい、ときつく言われ、3ヶ月はお互いに我慢!
 
3ヶ月後、2月の寒い日。クロに会いに行ったユッコさん。
もう私の事忘れちゃったかしら。
「クロちゃんが捨てられたと落ち込んでないかしら」
不安で不安でドッキドキ!
いざご対面!!
クロが訓練士に連れられ出て来た。
「クローッ!」
クロは体中でユッコさんを憶えていた。
喜んで、喜んで、『ユッコさんが来てくれた~😁』
 
訓練所の裏が丁度、土手になっている。
2人でそこに登った。
登り切ると、2月の寒い寒い突風がピューピュー。
寒いのなんのって。
だけど、クロの嬉しさとユッコさんの嬉しさが一つになって、
ものすごいエネルギー。
ウァォーッ!
クロもユッコさんも嬉しくて、嬉しくて、叫びたい歓気。
ベートーヴェンの歓喜の歌が聞こえた。
クロの喜びとユッコさんの喜びが一つになり、突風の吹く土手の上を歩いた。
(これは、ユッコさん後々忘れられない歓気体験となった。)
クロもきっと同じ気持ちだったに違いない。
🎶
🎵

 
 
それから3ヶ月後、クロは警察犬学校を卒業した。
入学した時に成犬でしたので、これ迄ですと途中で卒業となった。
 
その後もユッコさんはクロに引っ張られ、転びながら散歩をしていた。
ひょんな事から知り合った人に良い訓練士がいると言われて、今度はその女性訓練士に預けた。
 
朝、訓練士が迎えに来て、夕方戻って来る訓練が週3回
すると、みるみる良い子になっていった。
そして何と!!
預けて1年半後、待て!座れ!お手ができる様になった。
なんと!大会で、あの引っ張り犬・クロが家庭犬の部で「4位」になった!
 
あのボロボロで虐待され、捨てられていたクロちゃんが「4位」✨
その後、他の犬達と何度も山登りに行った。
ユッコさんの定休日はほとんど仲間のワン子(保護犬)達、5匹も6匹、すごい時は10匹になる。
山登りや湖、ハイキング、日本全国行った。
 
 
 
 
 
 
ユッコさんの所に来て、6ヶ月後。
体は大きいが穏やかなクロはもしかしたら、先住犬のダンディー君やジャーニーちゃんと仲良く暮らせるか、テスト期間をもって、見事に合格し、いよいよ、3階で暮らす事となった。
この頃、16㎏でユッコさんの所に来たガリガリであばら骨の出ていたクロは、30㎏になっていた。
毛もふさふさで立派になっていた。相変わらずお散歩の引っ張り癖は治らないけれど、いよいよハッキリ、ユッコさんの犬となった。小さなダンディー・ジャーニーをいじめる訳ではなく、小さなジャーニーママに3歩も引いて遠慮がちに生きていた。
 
 
あれから10数年の年月が流れ、幸せに暮らしていたが、クロは顔も白っぽくなり、白内障も入ってきた。耳も遠くなってきた様で、大声で「クロー!クロー!」って呼ばないと聞こえづらい様になってきた。
 
一番大変だったのは、後足が弱くなってきて、外階段で2回程落ちそうになった。
これは危ないと感じたユッコさんは、早々に1階のアパートを借りた。
そこはペット不可のアパートだったが、優しいオーナーさんが特別にユッコさんに貸してくれた。
オーナーさんありがとう。
 
1年後、年老いたクロは、その1階アパートの土間から入口の一段さえ、上がれなくなってきた。
クロが骨折でもしたら大変だ、と考えたユッコさんはクロをユッコさんの実家に預ける事にした。
 
南道路の広い庭、芝生の庭で転んでも大丈夫。何しろ、犬歴50年のユッコさんのスーパーお姉さんがいるから。
スーパーお姉さんは、昔体操の選手で国体にも出場している。
勿論、埼玉県では1位の選手で今でも体力は凄い!!
犬達は外に出たり、家に入ったり、自由自在。
実家には代々ユッコさんが助けた保護犬がいっぱいだ!
夏の酷暑の中彷徨っていた甲斐犬MIXかいちゃん。
売れ残り犬の茶々丸君。
外人に虐待されていてユッコさんが助けたクウちゃん等、仲間がいっぱいだ。
クロは最高齢だ。
 
穏やかで、争わないクロはそこが終の棲家となった。
いつも静かに、遠慮がちに実家で過ごしていた。
クロはユッコさんが行くと、「皆、俺のユッコさんだぞ~!」と急に強気になってワンワン!と吠えて喜んだ。
「さあ!クロ、散歩だよ」
他の仲間達と伊奈町の畑を散歩だ。
クロ、平地の畑ならスイスイだね。
クロ、はりきっちゃって嬉しそう
毎年の事だけど、3月菜の花の黄色い畑通路の中を歩いたね。
桜の川沿いも歩いたね。
でもユッコさんは、この春が最後になると分かったんだ。
来年はこの素晴らしいクロは、もうこの世にいないと…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その年の暑い暑い猛暑を乗り越えたクロは
2023年9月2日(晴天の日)
天国に昇っていった。
クロはユッコさんに見守られ、生涯を閉じた。
最後の最後迄笑顔でありました。
武士のように立派な旅立ちでありました。
 
本当に最後の最後迄笑顔で、
「ユッコさんありがとう」
と言って天国に旅立っていった。
推定16才位だと思う。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
クロの言葉
 
僕は絶対にユッコさんに迷惑をかけない様に天に昇って行こうと決めていたんだ。
それだけは僕のユッコさんへの恩返しだった。
日々忙しいユッコさんが会社を休んで5日間も僕に付きっきりで世話をしてくれた。
僕は今日、目を覚ましてもユッコさんがいる。又次の日もユッコさんがいる。
だから嬉しくて笑顔でいられたんだ。
もう死んで行くのにさ!
僕は1時間毎に撫ぜろと吠えてやった。
夜中もだぜ😁
僕の目の前に寝ていたユッコさんは
「ハイハイ、クロ、ここにいるよ」って何時でも頭を撫でてくれた。
僕は安心できた。
だから、トイレは毎回吠えてユッコさんに教えたんだ。
抱えて庭に連れて行ってもらって、庭で用を足したよ。
だから僕の心臓が止まる3分前にも外に連れ出してもらった。
僕の大好きな枝垂れ桜の日陰で僕はスーッと天に昇って行く事ができたんだ。
そんな僕をユッコさんは「クロ、クロ。クロは武士だったねー」って泣いたんだ。
野良犬だった僕を「武士」だって!
もうその言葉で僕は満足だ!
大満足だ!
だから天に昇っても看板犬になってユッコさんの会社の為に働くよ。
 
クロ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
今、クロは「看板犬」になっていつも笑っている。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
クロの恩返しの話